横田英史の読書コーナー
ケアの倫理 〜フェミニズムの政治思想〜
岡野八代、岩波新書
2024.5.4 8:32 am
東京大学の駒場と本郷の生協書籍部で長くベストセラーになっているのが気になり購入。筆者は、「ケアの倫理」と政治思想の「フェミニズム」の関係を歴史的背景を踏まえながら明らかにする。人文系の学者にありがちな冗長で複雑な文章には閉口するが、我慢して読むと「男性の論理で構築された社会から、ケアに溢れた社会や政治に変えるべき」という主張が伝わってくる。「男性の論理」とは異なる角度から社会や政治を見ることの大切さを教えてくれる書である。
筆者の主張は、終章の「コロナ・パンデミックの後を生きる」を読むとよく分かる。新型コロナによって、ケアという営みに世界的に関心が向けられた。こうしたなか日本社会と政治の劣化が白日のもとに晒された。「日本社会は根腐れを起こしている」と語る。
日本政治は、これまでケアは他人任せ、さらにその多くを女性に任せてきた。そうした社会状況のなかに新型コロナが襲った。政府は慌てふためいて「全国一斉休校要請」を出したが、筆者はそこに日本政治の特徴が顕著に表れていたとする。ケア実践や生きるための条件に対する侮蔑感と、市民生活に対する無関心、そして社会的な特権者/権力者が陥りがちな傲慢さが凝縮されていた。パンデミックの経験から学んだことをしっかり記憶することが、一人ひとりの声にしっかり応答する民主主義の第一歩につながると断じる。
ちなみに評者は寡聞にして知らなかったが、「ケアの倫理」は発達心理学者キャロル・ギリガンの著書「もうひとつの声」から始まる規範倫理学の学説で、Wikipediaでも取り上げられている。
書籍情報
ケアの倫理 〜フェミニズムの政治思想〜
岡野八代、岩波新書、p.352、¥1364