Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

言語はこうして生まれる〜「即興する脳」とジェスチャーゲーム〜

モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター、塩原通緒・訳、新潮社

2023.9.9  6:45 pm

 言語がどのように生まれ進化してきたのかを追求し、人間が言語を操る仕組みに迫った書。認知心理学や神経科学、脳科学などの知見を駆使しながら持論を展開する。「言語は即興で行うジェスチャーゲーム」「言語の仕組みを理解するのは言語学者でも難しいのに、なぜ幼児は4歳までに言語を習得できるのか」など、キャッチーな話題を巧みに取り入れた論理展開で楽しく読み進むことができる。生成AI(大規模言語処理)との関連性を思い浮かべながら読むのも良い。
     
 本書はクック船長の南米上陸の話から始まる。エンデバー号の乗務員とクック船長は言葉が通じない原住民たちとどのように意思疎通をしたのかを通して、言語の本質に迫っていく。筆者は、人と人とが共有する歴史・価値観・文化・共感などを頼りにしながら行うジェスチャーゲームが緩やかに結び付き、果てしなく蓄積されていくのが言語の本質だとする。即興に即興を重ねながら、共通の理解を積み上げていくことから言語は成り立つ。
     
 本書のポイントの一つは、人間の言語の複雑さは数学的に記述でき、各種の言語には共通する文法「生成文法」や「普遍文法」が存在するという、ノーム・チョムスキーらの学説を徹底的に否定するところだ。生成文法の構造は「言語遺伝子」として組み込まれている主張にも、言語は変化するのが早すぎて、遺伝子はとうてい追いつけないとする。
     
 この書評で紹介した「言語の本質」が入門書とすれば、本書は少しアカデミック寄りに振った啓蒙書である。言語に興味のある方、生成AIの仕組みに興味のある方が読むと、視野はぐっと広がるだろう。ちなみに筆者は最後の方で「ChatGPT-3」に少し言及しているが、生成AIの脅威には否定的な見解を述べている。ただし生成AIは脅威的な進歩を見せているだけに、この部分は稿を改める必要があるかもしれない。

書籍情報

言語はこうして生まれる〜「即興する脳」とジェスチャーゲーム〜

モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター、塩原通緒・訳、新潮社、p.384、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。