横田英史の読書コーナー
民主主義の経済学〜社会変革のための思考法〜
北村周平、日経BP
2023.4.30 10:14 am
民主主義を経済学の手法やツールを用いて理論的に分析する政治経済学の入門書。例えば、候補者が選挙に勝つためにどのような政策を選択するかを、数学的な仮説を用いて分析・検証する。仮説を実事例を用いて検証した内容は興味深いが、都合の良い事例をかき集めたようにも感じる。取り上げた事例が少し古いのも気になるところだ。日本ではあまり知られていない学問なので、本書にチャレンジするのは悪くないだろう。読み終えたら学部卒業生並みの知識を得られるという。
本書は、「民主主義と経済の発展」「大きな政府と小さな政府」「選挙で最も影響力がある有権者の属性」「民主主義は政府を大きくするか」「参政権と政府支出の対GDP比との関係」「所得格差と政府支出との関係」「政府支出と社会的な最適支出の乖離」といった話題を取り上げる。定性的に説明可能(予測可能)な政策の選択も少なくないが、数学モデルを用いて定量的に裏付けるところに特徴がある。
本書で残念なのは数式を多用しすぎるきらいがあるところ。仮説構築のための立式は定性的にも理解可能で悪くないのだが、移項や代入といった操作が延々と並ぶのはいただけない。単なる操作は巻末に押し込めた方が、筋がクリアになり得策だった。副題である「社会変革のための思考法」を期待する読者を考えると、編集者は読みやすさにもう少し配慮すべきである。
筆者によると、政治経済学で急速に研究が進んでいるのが「メディアと政治との関係」だという。サイバー空間を使った世論操作や政治工作で民主主義が動揺している時代だけに、この点に絞った続編を期待したい。
書籍情報
民主主義の経済学〜社会変革のための思考法〜
北村周平、日経BP、p.358、¥2640