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横田英史の読書コーナー

人はどこまで合理的か 上

スティーブン・ピンカー、橘明美・訳、草思社

2023.3.31  2:03 pm

 蔓延する陰謀論やフェイクニュース、もっともらしい数字を使ったまやかしに騙されて不合理な判断を下さないための方法論を提示した書。人間のもつ非合理性の背景にあるパターンを確率論や行動経済学などの知見をもとに明らかにする。合理的な判断を下すには、確率論やゲーム理論、クリティカルシンキング、行動経済学、統計学などの知的ツールに基づく「健全な推論」が不可欠だと説く。心理学者・認知科学者でハーバード大学教授の筆者が受け持つ講義をベースにしており、怪しげな情報が飛び交う現在を生き抜くためのヒントを与えてくれる書である。
     
 上巻では、人が陥りやすい落とし穴と、なぜそこに落ちてしまうのかを、事前確率や事後確率、ベイズ推論などを用いながら議論をする。筆者は、条件付き確率が多くの混乱のもとになっており、ベイズ推論は全人類が学ぶべき理性の道具だと主張する。論証を分解して一式の前提と条件文に解読する「形式的再構成」の重要性にも言及する。形式的再構成を行うことで、論理の飛躍や誤謬に気づくことが可能になるという。
     
 具体的な事例を用いて分かりやすくしようと努めているものの、確率の話を文章で説明するのはやはり難しい。集中力を切らさないようにしないと、字面だけを追っている自分に気づくことになる。

書籍情報

人はどこまで合理的か 上

スティーブン・ピンカー、橘明美・訳、草思社、p.288、¥2090

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。