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横田英史の読書コーナー

戦国日本の生態系〜庶民の生存戦略を復元する〜

高木久史、講談社選書メチエ

2023.3.25  1:59 pm

 戦国時代の越前・若狭地方における庶民の生業(なりわい)、庶民と領主の関係などを明らかにした書。教科書的なマクロな話ではなく、海や山、平地といった生態系(生活環境)に根ざした庶民のミクロな暮らしぶりを描く。古文書からは判然としない部分は、越前町小田文化歴史館学芸員を務めた筆者らしい視点で補い(想像を働かせ)、越前・若狭地方の社会を描き出す。驚くような新発見があるわけではないが、郷土史家が描く歴史も悪くないと思わせる書である。
    
 筆者は庶民の生業を、1次産業(農業や漁業)、2次産業(窯業)、3次産業(物流)に分けて明らかにする。それぞれについて、①生業は画一的・固定的ではなく、生態系から受ける恵みと制約に応じて多様かつ複合的だった、②地域内で閉じているのではなく、生業は地域外とのやり取りを通して成立した、③領主や大名と庶民とはギブアンドテイクで相互に依存しており、一方的な支配・被支配という単純な構造ではなかった、と語る。ちなみに織田信長や柴田勝家、朝倉氏といった戦国大名も少しだが顔を出す。

書籍情報

戦国日本の生態系〜庶民の生存戦略を復元する〜

高木久史、講談社選書メチエ、p.304、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。