横田英史の読書コーナー
我々はどこから来て、今どこにいるのか?下 〜アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか〜
エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文藝春秋
2023.3.11 11:57 am
こねくり回した文章で読み通すのは骨が折れるが、多様性や広い視野を養うにはうってつけの書である。「家族の成り立ち」「場所の記憶(ゾンビの力)」という視点から、ロシアを含む欧米や日本、中国の現状を歴史を踏まえて現状と今後を分析する。例えばトランプ大統領の誕生やブリグジットは、「家族の成り立ち」から考えると必然だったとする。米国や英国、ドイツ、ロシアに対する見解は、日本の言論に慣れた目からするとフランスの学者らしい独自性に溢れている。多角的な視点を持つうえで有用な1冊である。
下巻は、「核家族」がベースとなっている国では、高学歴のエリートが体制順応派となり、学歴社会から取り残された労働者との間に分断が生まれた。教育的不平等と経済的不平等が生じた。「共同体家族」に位置づけられるロシアと中国に対する見方は興味深い。西側諸国は中国を過大評価し、ロシア経済を過小評価しているが、少子高齢化が急速に進む中国の未来は暗く、ロシアの未来は明るいと説く。特にロシアは、プーチン政権で出生率や赤ちゃんの死亡率が大幅に改善しており、社会の安定につながっているとする。
「直系家族」として取り上げるのは日本とドイツである。日本への見方は非常に厳しい。両国は経済を優先して人口を犠牲にしているが、対策には大きな違いがある。ドイツは、東欧から人口を吸収して国力増強を図っている。一方の日本は、少子化を放置して移民も拒み、国力の維持を諦め、世界から引きこもろうとしていると断じる。
書籍情報
我々はどこから来て、今どこにいるのか?下 〜アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか〜
エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文藝春秋、p.320、¥2420