横田英史の読書コーナー
システム・エラー社会〜「最適化」至上主義の罠〜
ロブ・ライヒ、メラン・サハミ、ジェレミー・M・ワインスタイン、小坂恵理・訳、NHK出版
2023.2.12 11:23 am
GAAFをはじめとするビッグテック企業が社会に絶大な影響を及ぼす状況や過度の技術重視に危機感をいだき、よりよい社会づくりに向けた政策や社会制度、教育の方向性を示した書。テクノロジーの未来をエンジニアやベンチャーキャピタリスト、政治家に任せてはならないと説く。AIの社会実装の拡大、SNSにおける言論の自由、個人情報の収集に対する懸念などの問題を抱える今の時代に読んでおくべき書である。
本書は米スタンフォード大学が進めるコンピュータ・サイエンス学部での倫理教育プログラムがベースになっている。社会倫理教育センターの哲学者、エンジニア出身のコンピュータ・サイエンス学部教授、オバマ政権のスタッフ出身の政治学教授の3人が筆を執った。3人の教授は、エンジニアやIT企業の基本原理である最適化が、プライバシーや自由・平等を脅かし、民主主義の健全性を損なう可能性があると強調する。
本書が取り上げるのは、アルゴリズム、プライバシー、インターネットにおける言論の自由、自動運転車などのスマートマシンに関する問題である。それぞれについて現状を分析して問題の根源を明らかにし、どのように政治制度や社会制度を再起動すべきかを示す。ソフトウエア・エンジニアリングの文化に倫理を導入し定着させるための方策、ビッグテックを制御する方策など、傾聴すべき内容が多い。
書籍情報
システム・エラー社会〜「最適化」至上主義の罠〜
ロブ・ライヒ、メラン・サハミ、ジェレミー・M・ワインスタイン、小坂恵理・訳、NHK出版、p.429、¥2970
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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