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横田英史の読書コーナー

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 〜アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか〜

エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文藝春秋

2023.1.20  11:10 am

 上下2巻、上巻だけで400ページ近くの大著である。フランスの文化人類学者・歴史学者の筆者は、婚姻や相続、女性の地位といった「家族」という切り口で人類史を俯瞰し、世界を動かしている根源的な仕組みを明らかにする。5年前の書籍だが、日本での出版に合わせて追加された章ではウクライナ戦争を引き、「現在の世界的危機」と「我々の生きづらさ」の正体は、政治学や経済学ではなく、人類学によって捉えられると主張する。
     
 筆者は、家族を大きく「核家族」「一時的父方居住を伴う核家族」「直系家族」「父系共同体家族」に分類して、世界各地における人類の歩みをきめ細かく分析する。ちなみに日本は北海道の一部を核家族、他の地域を父系直系家族に分類されている。
      
 これほどの大著だと途中で集中力が切れて筋を見失うことがあるが、筆者は繰り返しを厭わず、丹念に議論を展開しているので道に迷う心配は少ない。さすがに万人向けとは言いづらいが、欧米の学者らしく壮大で厚みのある人類史である。ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリが描く「大きな物語」を好きな方に強くお薦めしたい。
     
 興味深く読んだのは米国に対する分析である。なぜ習俗において洗練度が低く非文化的に見えるのか、なぜ米国の特徴が身体的暴力なのかは、ホモ・サピエンスの太古性を示しているという。

書籍情報

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 〜アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか〜

エマニュエル・トッド、堀茂樹・訳、文藝春秋、p.384、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。