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横田英史の読書コーナー

人体の全貌を知れ〜私たちの生き方を左右する新しい人体科学〜

ダニエル・M・デイヴィス、久保尚子・訳、亜紀書房

2023.1.8  10:43 am

 ヒトの細胞や脳、臓器・器官などを扱う「人体科学」の最前線で何が起きているかを、技術動向やツールだけではなく、携わる科学者の人間模様を含めて描いた書。筆者の科学とヒトへの愛情が感じられる書である。我々の未来に最もインパクトを与えるのは、「自動運転車でもロボットでもない。ヒト生物学だ」と主張する。刺激的な話が多く、人体好き・脳好きな評者はワクワクしながら読み進むことができた。
      
 本書がカバーするのは、細胞、胚、臓器・器官系、脳、マイクロバイオーム(ヒトの体に共生する細菌、真菌、ウイルスなど微生物全体)、ゲノムである。免疫細胞学者の著者は、人体の精巧さ、複雑さ、多様性をあますところなく描き切る。例えば細胞に関しては、個々のタンパク質分子を生きたままの細胞内で追跡するツールの話に始まり、人体の器官や組織内で交わされている細胞同士のコミュニケーションにまで言及する。
       
 人体に棲み着いている微生物全体を一つの器官とみなすマイクロバイオームの話も興味深い。ビッグデータ科学の一大事業だと位置づけ、健康な食事の構成が、「何を食べるか」だけではなく「誰が食べるか」に変わるとする。ヒト一人ひとりが自分にとって最適な食事法を探す時代がやってくると語る。
      
 生命や人体に興味を持っている方だけではなく、知って損のない情報が満載なので多くの方にお薦めの1冊である。残念なのは装丁がポップなこと。アカデミックな内容を反映しておらず、少し損している気がする。

書籍情報

人体の全貌を知れ〜私たちの生き方を左右する新しい人体科学〜

ダニエル・M・デイヴィス、久保尚子・訳、亜紀書房、p.320、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。