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横田英史の読書コーナー

「帝国」ロシアの地政学〜勢力圏で読むユーラシア戦略〜

小泉悠、東京堂出版

2022.12.20  10:36 am

動パターンを理解する上で打って付けの書。2019年に出版された書だが、2022年のロシアによるウクライナ侵略にも通じる。著者は、ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする軍事評論家の小泉悠。ワイドショーなどで引っ張りだこである。ロシアという国の性癖、ロシアという国との付き合い方を知りたい向きにピッタリの書である。
       
 ウクライナだけではなく、シリア介入、中国への接近、北極圏への侵出、北方領土問題など、本書のカバー範囲は多岐にわたる。著者は、ロシアにとって法的な境界はあってないようなものと断じる。ロシアの主権が、国境を越えてどこまで及ぶかに関心があり、「人々は民族的なロジア人」と読み替えられ、政治的・軍事的介入の根拠とする「特殊な秩序感」がロシアの行動原理の根底には存在するという。
      
 ロシアのもつ「主権国家か否か」という判断基準も興味深い。国家の方向を自ら決めることができるのが主権国家である。したがって旧ソ連諸国はロシアにとっては“国内”と扱われることになる。筆者は、プーチンがブッシュに語った「ウクライナは国家でさえない」というエピソードを紹介する。ちなみに米国の傘で庇護されている日本も主権国家に該当せず、交渉相手として一段も二段も下に見られることになる。膠着した北方領土問題の根底にはこうした事情もありそうだ。

書籍情報

「帝国」ロシアの地政学〜勢力圏で読むユーラシア戦略〜

小泉悠、東京堂出版、p.296、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。