横田英史の読書コーナー
発明の経済学〜イノベーションへの知識創造〜
長岡貞男、日本評論社
2022.12.8 4:19 pm
発明やイノベーションが生まれる要件、発明やイノベーションの価値を高める要件を多様なデータに基づき定量的に分析した書。分析結果は、興味深いものもあるが、「やっぱりね」と容易に推測できる範囲内のものが少ない。定量的に裏付けたところに価値があるといえる。もっとも、さすがに税込み6000円超の値付けには疑問が残る。値段を考えると、発明やイノベーションを生む環境づくりにビジネスとして取り組む方にお薦めの1冊である。
米国と日本の比較は興味深い。例えば米国では予想されない研究開発の副産物(セレンディピティ)が10%強と日本の3.4%に比べ3倍も多い。セレンディピティの生まれる確率は、特定事業と直結しておらず、基礎研究を研究範囲に含んでいると高くなる。また米国は日本より、特許文献よりも科学文献を重視する傾向が強い。技術の進歩性の持続には、特許発明の集積よりもサイエンスの進展が重要という。日本の現状を見ると、米国に劣後するのも納得できる。
個別発明ごとに相当の対価を支払うことを義務化する「オリンパス判決」に対する分析は興味深い。この判決によって、リスクの小さな研究開発プロジェクトを追求する傾向が強まった。発明の質や特許取得率の、サイエンス活用の低下を招いたという。
多様な外部メンバーが存在した発明の方が価値が高く、ユーザーやサプライヤーとの垂直的な連携のよる発明が商業化される確率が高い、クロスライセンスの効用、パブリックドメインの有効性など傾聴すべき内容も多い。事業化に単独で利用できる特許は20%(日米とも)、事業化には平均で6件以上の特許を束ねる必要があるというのも面白い。ちなみに2022年の日経・経済図書文化賞を受賞した書である。
書籍情報
発明の経済学〜イノベーションへの知識創造〜
長岡貞男、日本評論社、p.320、¥6160