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横田英史の読書コーナー

多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織〜

マシュー・サイド、ディスカヴァー・トゥエンティワン

2022.11.11  10:41 am

 ビジネスやプロジェクト、生産性、イノベーション、教育において、多様性を維持することの重要さを論じた書。筆者は、例えば9.11を未然に止められなかったCIAの組織的問題を挙げる。優秀な人間を集めたが、多様性に欠け盲点を生んだ。数々の予兆に気づけず、9.11につながった。多様性と言うと女性やLGBTに関する話になりがちだが、本書はより広い視野で多彩に議論を進めている。ストーリーテリングにも優れており、お薦めの1冊である。
     
 筆者は、数学者だけではなく歴史学者や法哲学者、クロスワードパズルの猛者などで構成しエニグマ暗号を解た英国チーム、チームの上下関係が災いして適切な忠告ができなかったエベレスト登山隊の遭難、フィンランドの教育システムなどを取り上げる。事例はいずれも具体的で、分析にも説得力がある。
     
 例えばエベレスト登山隊の話。どれだけ献身的なチームでも、支配的なリーダーに多様な視点や意見が押しつぶされている限り、あるいは重要な情報が共有されない限り、適切な意思決定はできないと断じる。

 古い世代や価値観が世を去ってやっと新しい理論が発展するという「科学は葬式ごとに進歩する」のマックス・プランクの言葉や、「クールなテクノロジーを発明したいのなら、頭が切れるより社交的になったほうがいい」というのも興味深い。

書籍情報

多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織〜

マシュー・サイド、ディスカヴァー・トゥエンティワン、p.366、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。