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横田英史の読書コーナー

NOISE(下)〜組織はなぜ判断を誤るのか?〜

ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン、村井章子・訳、早川書房

2022.10.8  9:04 am

 組織や個人が判断を誤る原因をノイズに求め、どうすれば誤りの少ない意思決定ができるかを論じた書の下巻。下巻ではノイズを見出し、原因を突き止め、ノイズを減らす方策を具体的に提示する。人事評価や採用面接、精神科医の診断が惨憺たる原因をノイズに求め、解決策を詳細に示す。現役時代に人事制度を3つ作り、数十回の採用面接を経験した評者にとっては、身につまされる内容である。誤らない組織作りのためのヒントを与えてくれる書でお薦めだ。
      
 筆者は判断を誤らないための方策として、ガイドラインの作成、アルゴリズム(AI)の利用を勧める。ガイドラインはやることを単純にし、ノイズを減らす。ガイドラインの作成では、判断しやすい要素に分解することがポイントだと強調する。それぞれの要素について可否を決める。こうしてブレを少なくして的確な判断に導く。例えば人事評価では、評価尺度を明確化・具体化する。その尺度を正しく使うためのトレーニングを行う。まず個々の担当者が独立に判断を下し、ハロー効果を防ぐ。最後に担当者が持ち寄り、最終的な判断を下す。
       
 判断のエラー(ノイズ)を減らしたいなら、反対意見が正しく、自分の判断が間違いである可能性を認める態度が肝要とする。「試す、失敗する、分析する、修正する、また試す」を繰り返すことを勧める。的確な予測をする人は、分析的・確率的に考え、課題を構成要素に分解し、問いと答えを微調整を繰り返しながら判断を下す。同時に、判断を下す人への情報提供の順序が重要だとする。タイミングを厳密に管理し、バイアスの連鎖が生じることを防ぐ。

書籍情報

NOISE(下)〜組織はなぜ判断を誤るのか?〜

ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン、村井章子・訳、早川書房、p.328、¥2310

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。