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横田英史の読書コーナー

メタバース未来戦略〜現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤〜

久保田瞬、石村尚也、日経BP

2022.9.11  5:55 pm

 いま話題のメタバースを、ビジネスの視点から短期・中期・長期の見通しや、メタバースにおいて取るべき4つのビジネスポジンションをバランス良く解説した書。メタバースについて、定着期(2030年以降)に至るまでの道筋を、シーズ期(2000年代〜2010年代)、黎明期(現在から2025年)、普及期(2025年〜2030年)に分けて解説する。技術的な視点は弱いものの「メタバースの今」を手際よく切り取っている。メタバースビジネスをざっくり知ることができる書でお薦めである。
     
 筆者は、「メタバースとは何か」から始め、メタバースに関する3つの誤解、メタバースをめぐる世界の状況と主要プレーヤー、メタバースビジネスの動向と業界構造、業界別のメタバースビジネス、メタバースの始め方、メタバースの今後について解説する。事例も豊富で、サンリオ、三越伊勢丹、ローソン、NIKE、日産自動車、JR東日本、ヘルシンキ市などを取り上げる。各章の末尾に挿入したインタビューの人選が適切で読み応えがある。
      
 筆者はメタバースを3次元のインターネットと定義する。バーチャル空間にインターネットがもう一度生むのがメタバースだと語り、その裾野の広さを強調する。メタバースについての①セカンドライフの二の舞になる、②NFT、Web3=メタバース、③VRデバイスは普及しない、という3つの見方があるが、いずれも誤解だと断じる。
      
 動きの激しい分野なので、賞味期間は短そうだ。そういう意味で、内容や構成はかなり雑誌的である。昔なら日経BPがカバーしそうな領域だが、今回は編集者として裏方に回っている。OBとしては少し寂しい気がする。

書籍情報

メタバース未来戦略〜現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤〜

久保田瞬、石村尚也、日経BP、p.304、¥1870

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。