横田英史の読書コーナー
IoTと日本のアーキテクチャー戦略
柴田友厚、光文社新書
2022.9.7 5:53 pm
タイトルと内容に少しギャップがある書。アーキテクチャーの話はふんだんに登場するものの、IoTに割かれたページは必ずしも多くない。IoTの話題に期待して購入すると拍子抜けするかもしれない。筆者は、トヨタ、ダイキン、コマツ、日立製作所などの事例を取り上げ、日本企業のアーキテクチャー戦略の現状を分析する。内容に少々古さ(今さら感)が漂う箇所もあるが、アーキテクチャーについて頭を整理するのに役立つ。
筆者は、まずアーキテクチャー戦略とモジュール戦略を取り上げ、その重要性を強調する。それぞれがどのように生まれ、グローバルでどのように議論され、どのように発展したのかを解説する。アーキテクチャー戦略とモジュール戦略が密接な関係にあることを繰り返し強調する。日本の産業競争力の強化はアーキテクチャー戦略とサイバーフィジカルシステムが鍵を握ると語る。同時に、日本におけるモジュール化についての誤解や現場力への過度の依存に警鐘を鳴らす。
日本の産業界では「すり合わせ信仰」がアーキテクチャー戦略の行く手を阻んだ。「すり合わせ」と「(アーキテクチャー戦略につながる)モジュール化」を、誤って二者択一の選択肢としてとらえたからである。結果としてモジュール化のもつ「時間の経過によって変わる動態的な観点」がすっぽり抜け落ち、日本の産業は硬直化したとする。
書籍情報
IoTと日本のアーキテクチャー戦略
柴田友厚、光文社新書、p.264、¥968
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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