横田英史の読書コーナー
AI・ロボットと共存の倫理
西垣通、河島茂生、広井良典ほか、岩波書店
2022.8.12 12:04 pm
本書の問題意識は、「人間と共存することを倫理として持つ自律ロボットはどのように創れば良いかを真剣に研究すべき時が来ている」である。「人新世におけるAIとロボット」「ロボットの倫理」「AI倫理の実装をめぐる課題」などをテーマとして取り上げ、工学、情報学、メディア学、社会学の研究者が横断的に論じる。AIやロボットの倫理に関する議論の現在地を知ることのできる意欲的な書である。
執筆陣は、人類はAIやロボットといかに向き合うべきか、AIやロボットは倫理的にどういった問題をはらむのか、AIの倫理に関する自然科学と人文社会科学とのせめぎ合いなどについて、議論を展開する。議論のレベルと粒度にバラツキもあるが、学際的なテーマを扱っているので致し方がないのかもしれない。
それでも、「社会的マイノリティへの意識的・無意識的な差別の構造を理解し、包摂的な社会的な議論を経ずして倫理的な情報設計は行えない」「情報技術は常に、設計者の認知バイアスに起因する問題が出るたびに対症療法を行わざる得ない」「ビックデータやAIを過大評価し、世界の現象はすべてを予測できるという見方は退けられるべきである」といった警鐘には納得である。
国際的にELSI(倫理的・法的・社会的課題、Ethical, Legal and Social Implications)という言葉には、「AI研究を止めにきた人文社会科学」という負のイメージがあるという議論は初耳だった。RRI(責任ある研究イノベーション、Responsible Research ando Innovation)が使われるようになっているという。勉強になる。
書籍情報
AI・ロボットと共存の倫理
西垣通、河島茂生、広井良典ほか、岩波書店、p.240、¥2750