横田英史の読書コーナー
危機の外交〜岡本行夫自伝〜
岡本行夫、新潮社
2022.8.6 7:37 pm
外交官や首相補佐官、政府の外交顧問として活躍し、2020年4月に新型コロナでなくなった著者の絶筆となった書。筆者は自らの体験に照らし合わせて、日本の安全保障体制や意識の甘さに鋭く警鐘を鳴らす。見解に外務省的な偏りがあるのは否めないが、ロシアのウクライナ侵略や中国の傍若無人な振る舞いを踏まえると、傾聴に値する箴言が少なくない。多角的で俯瞰的な視点を養える良書である。日本の安全保障を考える上で必読の書だろう。
岡本行夫といえば、テレビでコメントを発する外交評論家といったイメージだったが、本書を読むとバックグラウンドの確かさと奥深さに驚かされるとともに、急逝が惜しまれる人材だったことがよく分かる。「日本の行く末が心配である。(中略)没落の始まりの時期にいるのかもしれない」と、全編にわたって筆者の思いがこもっている。
筆者が繰り返し述べるのが、日本外交における戦略の乏しさである。目前の些細なことに拘泥し、思いつきの行動に走り、世界的な視野を持った決断が下せない。その結果が、巨額の資金や資材を提供したにもかかわらず、戦勝パレードに名を連ねることができなかった湾岸戦争での大失態である。筆者は当時の海部首相や省益に走った大蔵省を厳しく糾弾する。当事者だった筆者の憤りと悔恨はいまな大きい。
所々に登場する政治家や高級官僚に対する人物評が興味深い。「安全保障に協力してくれた横須賀市。逃げた福岡市。妨害しようとした横浜市」といったエピソードも登場する。ちなみに経済人で登場するのは、ソニーの盛田昭夫くらいである。
書籍情報
危機の外交〜岡本行夫自伝〜
岡本行夫、新潮社、p.477、¥2420