横田英史の読書コーナー
mRNAワクチンの衝撃〜コロナ制圧と医療の未来〜
ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン、石井健・監修、柴田さとみ・訳、山田文・訳、山田美明・訳、早川書房
2022.5.5 12:09 pm
mRNA技術を使ったファイザー製新型コロナワクチンの開発物語。バイオベンチャー企業の独ビオンテックの共同創設者夫婦を軸に、ワクチン開発のプロセスを詳細に綴る。ジャーナリストとらしい視点と、内部の人間が知る詳細な情報が塩梅良く配合されている良質なノンフィクションで、お薦めの1冊である。
本書は、トルコからの移民夫婦が癌治療を専門とするバイオベンチャーを設立するまでの経緯に始まり、mRNA技術との出会い、新型コロナワクチン開発組織「ライトスピードチーム」の立ち上げ、ベンチャーにつきまとう資金繰りの問題、治験・許認可における紆余曲折、大量生産の問題、ファイザーとの提携交渉など、エピソード満載である。
筆者は、ビオンテック社を創設したエズレム・テュレジおよびウール・シャヒンと英フィナンシャルタイムスの記者の3人。筆者は、「新型コロナウイルスの蔓延が少しでも早い時期だったら、mRNAの技術は治験に使えるレベルに至っていなかった。理想的な体制が偶然整っていた」と語る。必要な時に必要なヒト・カネ・モノが揃い、多くの偶然も味方して、2020年1月27日の開発チーム結成から11か月でワクチン投与に至ったことには驚かされる。
ちなみにmRNA医療の発明者カタリン・カリコはビオンテック社の副社長だが、本書ではほとんど言及されていない。カリコの人生と業績を知るには、別の書籍を読む必要があるので要注意だ。
書籍情報
mRNAワクチンの衝撃〜コロナ制圧と医療の未来〜
ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン、石井健・監修、柴田さとみ・訳、山田文・訳、山田美明・訳、早川書房、p.432、¥2530