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横田英史の読書コーナー

評伝 福田赳夫〜戦後日本の繁栄と安定を求めて〜

五百旗頭 真・監修、岩波書店

2022.4.18  7:55 pm

 第67代 内閣総理大臣だった福田赳夫の評伝。在任期間が1976年から2年と短いこともあって印象が薄かったが、本書を読み自らの不明を恥じるばかりである。本書は福田の経歴や政治信条、人柄を余すことなく伝える。淡々とした文章は明瞭かつ読みやすい。700ページの大著だが分量はさほど気にならない。高度経済成長とオイルショック、金権選挙、日本列島改造論といった時代を振り返る機会を与えてくれる書である。
      
 福田は時代の状況をうまく切り取り、的確に表現した政治家である。造語・警句の名手として知られる。例えばオイルショック時の「狂乱物価」、高度成長期の風潮を戒めた「昭和元禄」、日米を軸に各国との平和を模索する「全方位平和外交」などが有名である。このほか、ダッカ日航機ハイジャック事件での「人命は地球より重い」、総裁選で大平正芳に破れたときの「天の声にも変な声もたまにはある」なども印象に残る。
      
 真骨頂が経済運営にあったことが本書を読むとよく分かる。蔵相時代に総需要抑制政策を指揮して、オイルショックによる物価上昇に歯止めをかけた。何よりも、理念や思想が明確で政策運営に良識と矜持があり、一本筋が通っていたことは特筆に値する。

書籍情報

評伝 福田赳夫〜戦後日本の繁栄と安定を求めて〜

五百旗頭 真・監修、岩波書店、p.708、¥5280

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。