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横田英史の読書コーナー

サイバー社会の「悪」を考える〜現代社会の罠とセキュリティ〜

坂井修一、東京大学出版会

2022.3.31  11:04 am

 著者が歌人として知られる東大情報系教授の書で、タイトルからも哲学的な内容を期待したが残念ながら期待はずれだった。筆者は冒頭で次のように述べる。「『悪』のありかを見つめ直し、情報セキュリティの限界に検討する」、「十分に予想される情報技術がもたらすかもしれない『悪』を予測し、明るい社会を築くために何をどう考えるべきかを考察する」と。しかし残念ながら、この約束が守られたとは思えない。
      
 一方で、セキィリティについて詳しくない方に向けた啓蒙書としては、コンピュータやセキュリティの歴史について簡潔かつ平易に解説しており一定の評価ができる。筆者は、コンピュータ以前、コンピュータ以後、インターネットの各時代における「悪」、セキュリティの技術と心得について論じる。例えばコンピュータ以前なら「トロイの木馬」、コンピュータ以後ならマルウエア、インターネットならパソコン遠隔操作事件、セキュリティの技術なら公開鍵暗号やブロックチェーンなどを取りあげる。
       
 ちなみに本書は、東京大学出版会の創立70周年を記念して出版された書である。筆者は3月末まで日経新聞の日曜日の文芸欄(最後のページ)にコラムを執筆しており、評者は洒脱な文章が気に入っていた。本書には肩透かしを食らわされてしまった。

書籍情報

サイバー社会の「悪」を考える〜現代社会の罠とセキュリティ〜

坂井修一、東京大学出版会、p.202、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。