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横田英史の読書コーナー

カーボンニュートラルの経済学〜2050年への戦略と予測〜

小林光、岩田一政、日本経済研究センター、日本経済新聞出版

2022.3.24  11:02 am

 2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)にするための国際的な取り決めや日本の政策、提言をまとめた書。環境庁OBが中心となってまとめた書だけに事実関係は整理されており勉強になる。一方で政策提言は他人任せで、願望が前面に出て説得力と力強さに欠ける。「カーボンニュートラルの経済学」というタイトルにつられて購入すると、期待はずれでガッカリするかもしれない。帯に「カギを握るのはDX」とあるが、中身が伴わず意味不明である。
      
 本書は、カーボンニュートラルについて、展望、産業構造、エネルギー需給の現在と未来、カーボンプライシング、企業と消費者の変容、日本政策、国際協調の順に論じる。官僚OBとしての「環境政策とエネルギー政策が統合的に運用されておらず、欧米に比べてパフォーマンスが見劣りがする」「政策は本気度が試されているのも関わらず小手先の対策に終止する」「ありえない前提に立つ長期エネルギー需給見通しは当たったためしがない」といった指摘には耳を傾けるべきだろう。
      
 ただし筆者が、格下官庁だった環境庁時代の体験を繰り返しグチるのは良い感じがしない。また技術面への言及は少ないので、ビル・ゲイツの「地球の未来のため僕が決断したこと」と併せて読むのがお勧めである。

書籍情報

カーボンニュートラルの経済学〜2050年への戦略と予測〜

小林光、岩田一政、日本経済研究センター、日本経済新聞出版、p.264、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。