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横田英史の読書コーナー

地球の未来のため僕が決断したこと

ビル・ゲイツ、山田文・訳、早川書房

2022.2.26  6:53 pm

 温室効果ガス ゼロを2050年に達するために、技術・市場・政策面で行うべきことを論じた書。2050年における温室効果ガス ゼロ達成を目標に置き、バックキャストで議論を展開する。たとえ2030年時点で削減効果が見込めても、誤った形で適用すると2050年の温室効果ガス ゼロ達成の足かせになりかねない技術や政策は「不可」と断じる。今流行のバックキャスト思考の見本ともいえる書で、その面でも注目に値する。
     
 筆者は米マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ。本書のキーワードの一つは「グリーンプレミアム」である。温室効果ガスを排出する既存技術を使った場合と排出ゼロの新技術を使った場合のコスト差を指す。現在の温室効果ガスの排出量は年間510億トン。これを構成する「電気を使う(27%)」「ものをつくる(31%)」「ものを育てる(19%)」「移動する(16%)」「冷やしたり暖めたりする(7%)」ごとに、グリーンプレミアムを小さくする技術を特定するとともに、実現可能性に言及する。
     
 温室効果ガス ゼロにおいては市場と政策、技術は互いに補完し、この3つのレバーは「すべて同時に、同じ方向に引く必要がある」とする。文章は論理的で構造化されており、優れた翻訳もあってとても読むやすい。地球温暖化については偏った視点の書が少なくないが、本書は定量的かつ冷静に地球温暖化について議論を進める。例えば化石燃料が暮らしに根付いている現状を考えると2030年の温室効果ガス セロは現実的ではないと断じ、目標は2050年と置く。

書籍情報

地球の未来のため僕が決断したこと

ビル・ゲイツ、山田文・訳、早川書房、p.336、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。