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横田英史の読書コーナー

脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか〜脳AI融合の最前線〜

紺野大地、池谷裕二、講談社

2022.2.22  6:52 pm

 刺激的なタイトルと内容の書。東京大学駒場生協の書籍部ランキングを見て購入したが大正解だった。脳と情報技術の融合の最前線に立つ研究者が旬の話題を、クリアな語り口で紹介する。最新の研究を構造化して整理しており、とても読読みやすい。イーロン・マスク創業の米NeuralinkのBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)など幅広い話題を取りあげる。脳と人工知能(情報技術)の今後に興味をもつ方にお薦めの書である。
     
 本書が取りあげる話題は、脳と脳をコンピュータを介してつなぐ、脳にセンサーを埋め込む、BMI、脳と人工知能の融合、脳とインターネットの結合などと幅広い。脳に電極を埋め込んだサルが人工知能の力を借りて卓球ゲームをプレイする、人工知能によってMRIのデータから鬱病かどうかを70%の精度で診断する、脳の活動を人工知能で読み取り人が考えていることを97%の精度で文章化するなど、驚かされる研究や動物実験が数多く紹介されている。
     
 筆者は東京大学の「ERATO 池谷AI融合プロジェクト」の創設者とメンバー。ERATOは脳の未知の能力を人工知能を用いて開発することで、脳の潜在性の臨界点を探るとするプロジェクトである。動きの早い分野なので内容の陳腐化が気になるが、可能な限り直近の話題を取り上げようとする著者の姿勢は好感が持てる。脳と人工知能をつなぐことに対して、著者があまりに楽観的なところに危うさを感じるが、研究者としては致し方ないのかもしれない。

書籍情報

脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか〜脳AI融合の最前線〜

紺野大地、池谷裕二、講談社、p.290、¥1760

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。