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横田英史の読書コーナー

日本半導体 復権への道

牧本次生、ちくま新書

2022.2.11  12:27 pm

 書名と内容に少しギャップがある書。凋落著しい日本の半導体産業(デバイス産業)が復権するための処方箋を期待するとガッカリしそうである。「官民連携での開発体制」を提唱するが、実質で10ページほどを割くだけで物足りない。半導体の基礎や歴史、日米半導体摩擦など、昔話や基本的な話が大半を占める。著者の「私の履歴書」を含め、半導体の構造や歴史などを平明に綴っているので、半導体を詳しく知らない方が最小限の知識を得るのに向く。
     
 筆者が半導体復活の起爆剤として期待を寄せるのが、自動運転者を含むロボティクスだ。ロボティクス向け半導体デバイスの基盤技術を先行して確立するために、官民連携での強力な開発体制を構築するべきだと提唱する。この部分は、もう少し書き込んで説得力を強めてほしかった。ちなみに筆者は、日立製作所の半導体のトップとして活躍した人物で、半導体産業における標準化とカスタム化のサイクル現象を説いた「牧本ウェーブ」で知られる。
      
 残念なのは、日本の半導体産業(デバイス産業)が衰退した原因の分析が不十分なところ。垂直統合型から水平分業型への移行というトレンドに乗り遅れたことや、総合電機メーカの一部門でのデパート商法で専門性とスピード感に欠けたことを原因とするが、筆者ならではの視点に欠ける。半導体メーカーの経営に携わった幹部として、いつ、どこで、どのように経営を誤ったかを明らかにし、今後の教訓として活かせるだけの内容がほしかった。

書籍情報

日本半導体 復権への道

牧本次生、ちくま新書、p.286、¥968

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。