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横田英史の読書コーナー

無理ゲー社会

橘玲、小学館新書

2022.2.5  12:22 pm

 タイトルが全ての書。無理ゲーとは「攻略が無理なほど難しいゲーム」を意味する。無理ゲー社会は、遺伝的宝くじ(遺伝ガチャ)が社会的・経済的な成功に直結し、遺伝ガチャに外れると這い上がることは難しい社会を指す。筆者は、無理ゲー社会の構造を解き明かそうと試みる。2021年の新語大賞に選ばれた「親ガチャ」や絶望死に代表される世相をうまく切り取っており、ベストセラーになったのも頷ける。ただし、牽強付会な議論の進め方には好き嫌いが分かれそうだ。
      
 筆者はリベラル化している世界に問題の根源があるとする。リベラルは「知能と努力」によって誰でもが成功できるメリトクラシー社会を標榜するが、遺伝ガチャに外れ、才能がないと成功はおぼつかない。「自分らしく生きよ」「自分の人生は自分で決める」というリベラルの主張は、知能の高い上級国民と知能の低い下級国民に社会を分断するだけで、そもそも無理筋だと筆者は主張する。
      
 筆者の主張は強烈だが、議論が前のめりすぎて説得力に欠ける部分がある。特に後半は上滑り感が強く残念である。筆者の力量のせいなのか、新書というフォーマットが深い議論に向かないせいなのか判然としない。

書籍情報

無理ゲー社会

橘玲、小学館新書、p.288、¥924

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。