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横田英史の読書コーナー

知能低下の人類史〜忍び寄る現代文明クライシス〜

エドワード・ダットン、マイケル・A・ウドリー・オブ・メニー、蔵研也・訳、春秋社

2022.1.13  9:52 am

 内容を慎重に吟味する必要のある書である。優生学的な議論もあり、政治的な正しさ(political correctness)の観点からはいくつも疑問符がつく。筆者は、産業革命をピークに人間の知能は遺伝的な劣化によって、著しく低下しつつあると論じる。結果として、世代を経るに従って社会全体の知能は低下する。現代文明の行く末は暗いというもの。この書評では、真逆の立場をとるフリン効果を紹介する「なぜ人類のIQは上がり続けているのか?」を取り上げているが、併せて読むことをお薦めする。
      
 筆者は生物学、進化心理学、社会科学、歴史学の観点から持論を展開する。ただし翻訳者があとがきで書いているように、牽強付会的な論理構成もあるので要注意である。遺伝的な劣化は、高い知能をもち豊かな生活を営む層の出生率は低下する一方で、逆の立場にある層の出生率は低下しないことで引き起こされる。例えば、移民をはじめとした出生率の高い層の増加が劣化に拍車をかけるとする。

書籍情報

知能低下の人類史〜忍び寄る現代文明クライシス〜

エドワード・ダットン、マイケル・A・ウドリー・オブ・メニー、蔵研也・訳、春秋社、p.328、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。