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横田英史の読書コーナー

MORE from LESS(モア・フロム・レス)〜資本主義は脱物質化する〜

アンドリュー・マカフィー、小川敏子・訳、日本経済新聞出版

2021.11.26  2:48 pm

 資本主義と技術の進歩によって、消費は脱物質化を実現した。人類はより少ない資源でより多くの消費(大きなGDP)を可能にしたとする書。マルサスの「人口論」やローマクラブの「成長の限界」の悲観的な見方は払拭されたとデータに基づき主張する。飽くなき資源探査と脱物質化を過小化したと結論づける。米国人にありがちな、資本主義と技術に対する楽観主義で貫かれている。デジタル時代の行く末に対する一つの見解を提供しており、一読に値する。
     
 著者は、大量消費の時代は終わり、先進国の資源消費量はピークを超えたと分析する。技術の進歩がスリム化、置換、最適化、消滅を可能にし、経済の繁栄と脱物質化の両立を実現したという。こうした状況を生んだ要素を、筆者は「希望の4騎士」と呼ぶ。4つとは、テクノロジーの進歩、資本主義、市場の自覚(Public Awareness)、反応する政府(Responsive Goverment)である。
      
 資本主義とテクノロジーの負の側面として、絆と喪失と分断、不公平の問題に目を向ける。資本主義とテクノロジーの進歩から取り残された領域の多くで、絶望死が増えているとする。先に取り上げた「最後通牒ゲームの謎」と同じ文脈である。筆者は、この書評で取り上げた「機械との競争」「ザ・セカンド・マシン・エイジ」をエリック・ブリニョルフソンとともに著した米MITスローン経営大学院の首席リサーチ・サイエンティストである。

書籍情報

MORE from LESS(モア・フロム・レス)〜資本主義は脱物質化する〜

アンドリュー・マカフィー、小川敏子・訳、日本経済新聞出版、p.376、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。