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横田英史の読書コーナー

最後通牒ゲームの謎〜進化心理学からみた行動ゲーム理論入門〜

小林佳世子、日本評論社

2021.11.21  2:45 pm

 人間とはどういった生き物かを、神経経済学の視点から探った書。神経経済学とは、脳神経科学と経済学が一緒になった学問。非常に分かりやすく最新の知見を紹介している。「誰でも読める専門書」という筆者の目標は達成されている。索引はないものの参考文献が非常に充実しており、行動経済学や進化心理学に興味を持つ方にお薦めの1冊である。ちなみに2021年度の日経・経済図書文化賞を受賞している。
     
 本書を読んで感じるのは、「脳の仕組みの理解することが、人間と社会の理解へとつながること」の面白さである。脳科学と社会科学の連携が、人間理解の深化につながることがよく分かる。心理学、生物学、人類学、動物生物学、脳神経科学、認知科学、行動経済学をカバーする学際的な領域は実に魅力的で興味深い。
       
 筆者は「人間はどういった場合にエコン(ホモ・エコノミクス:合理的経済人)のように振る舞い、またどのようなときにエコンとは異なる振る舞いをするにか」を明らかにする。合理性に欠けるにもかかわらず「人間が見知らぬ人に親切にする」「顔を見たこともない全く知らない人のために、自分の分け前の20%を提供する(20%の希望)」ことを、筆者は適応合理性と呼ぶ。人が生き残り、子孫を残す可能性を高めるために必要な合理的選択だとする。
      
 本書で強調されるのは、人間とは集団で生きるように仕組まれた動物であること。集団を作り維持するための必要な能力の一つが、道徳性や向社会行動(社会として好ましい行動)を支える「共感」だとする。人間は孤立に弱く、人とのつながりはアメ、孤独感はムチ(ストレス)である。人間は真に正しくあるよりも、正しく見えることに配慮する。不平等は是認できるが、不公平には嫌悪を感じる。

書籍情報

最後通牒ゲームの謎〜進化心理学からみた行動ゲーム理論入門〜

小林佳世子、日本評論社、p.312、¥2090

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。

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