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横田英史の読書コーナー

情報の哲学のために〜データから情報倫理まで〜

ルチアーノ・フロリディ、塩崎亮・訳、河島茂生・訳、勁草書房

2021.8.22  6:47 pm

 情報(Information)を、「コンピュータの処理するデータ」の枠を外して、数学や物理学、生物学、経済学といった視点から広義に捉え直した書。多様な切り口から“情報”を整理し、情報哲学や情報倫理の議論に展開する。原題の「Information A Very Short Instruction」が本書の内容を的確に言い表している。“情報”の多様さに改めて気付かしてくれる書である。
    
 筆者は英オックスフォード大学インターネット研究所教授で、情報哲学と情報倫理を専門とする。情報は世界そのものになりつつある。筆者が論じるようにデジタル格差はデジタルスラム街の下地を作り、世界規模で社会の再設計を迫っている。議論のベースを提供する本書は、一読する価値はある。
    
 この手の書籍にありがちだが、言葉が入り組んでいて読みやすいとは言えないが、20点もある図や7点の表を用いて分かりやすさに配慮している点は評価できる。とりわけ、“情報”をどのような意味合いで使っているかを示す「見取り図」が章ごとに置かれ、迷路に入り込むのを防いでくれる。巻末に置かれた、訳者の河島茂生による解説を読み込むと理解が進む。お勧めである。

書籍情報

情報の哲学のために〜データから情報倫理まで〜

ルチアーノ・フロリディ、塩崎亮・訳、河島茂生・訳、勁草書房、p.240、¥3300

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。