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横田英史の読書コーナー

DXの思考法〜日本経済復活への最強戦略〜

西山圭太、冨山和彦・解説、文藝春秋

2021.5.30  2:28 pm

 DX商戦が真っ盛りである。もっとも“なんちゃってDX”や“DXもどき”が跋扈し、情況は悪化の一途をたどる。「2003年までに、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」としたe-Japan戦略が打ち出されてから20年。同じことが繰り返されかねないと考えるのは杞憂だろうか。
   
 こうしたなか気になったのが、日経新聞のコラム春秋では「産業構造論に詳しい」と紹介されている元経済産業省官僚(現在は東大客員教授)が上梓した本書。「DXレポート」を出すなど、日本のDXの旗振り役である経産官僚が、どのように現状を捉えているか興味津々で本書を読み始めた。


 結論を言うと少し期待はずれでだった。筆者はDXの思考法として3つを挙げる。①課題から考える。解決策に囚われない。②抽象化する。具体に囚われない。③パターンを探す。ルールや分野に囚われない。述べていることは間違いない。しかし、どこかで耳にした話を寄せ集めた感があり、目新しさに欠ける。
   
 全体に抽象的な議論が少なくないこともあり、正論なのだが腹落ちしない傾向がある。図を多用するのは良いのだが、図のクオリティがいま一歩で理解を助けるまでに至っていない。図については、編集者が手を入れるべきところだろう。
   
 筆者が述べているように、DXのキモはX(トランスフォーメーション)の部分にある。CX(コーポレート・トランスフォーメーション)、IX(インダストリアル・トランスフォーメーション)に注目するのは、D(デジタル)の部分に焦点が当たりすぎ、あらぬ方向に走り始めている日本の情況を修正する手段として悪くない。

書籍情報

DXの思考法〜日本経済復活への最強戦略〜

西山圭太、冨山和彦・解説、文藝春秋、p.272、¥1650

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。