横田英史の読書コーナー
裁判官も人である〜良心と組織の狭間で〜
岩瀬 達哉、講談社
2021.5.8 12:21 am
厚いベールに覆われた裁判所という組織の実態、組織の一員としての裁判官の素顔を丹念な取材をもとに明らかにしたノンフィクション。不可解な判決を生む組織上の問題や、三権分立といいながら司法と行政の間にある微妙な上下関係、裁判員制度や死刑制度の問題点などに踏み込んでいる。手練のノンフィクション作家に書だけに読み応えがある。日本の裁判制度に関心のある方に向く書である。
筆者は日本の裁判の歴史を紐解き、関係者の証言を重ね合わせながら話をすすめる。説得力のある展開に、つい引き込まれる。政府の政策と相容れない判決を下す裁判官は人事上で不利な立場に追いやられる。定年間際や退官を決心した裁判官、揺るがぬ信念をもつ裁判官はごく少数派である。青年法律家協会に対するブルーパージや長沼ナイキ訴訟、公害裁判など、多くのエピソードを盛り込む。
本書を読んで感じるのは、最近放映されているテレビドラマ「イチケイのカラス」とは大きく異なる裁判官の実態である。裁判官の多くは、最高裁を頂点とする官僚組織のなかで身動きが取れなくなっている。筆者が本書で浮かび上がらせているのは、権威や人事評価に弱く、忖度や根回しにいそしむ人間臭い裁判官の実態である。
書籍情報
裁判官も人である〜良心と組織の狭間で〜
岩瀬 達哉、講談社、p.330、¥1870
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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