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横田英史の読書コーナー

スケール(上):生命、都市、経済をめぐる普遍的法則

ジョフリー・ウェスト、山形浩生・訳、森本正史・訳、早川書房

2021.5.1  12:16 am

 生命、組織、企業、都市、経済などの成長と限界には、統一的な法則があるとする書。「エネルギー損失最小化と代謝能力最大化」「代謝率はべき乗法則に従ってスケールし、その指数は4分の3に非常に近い」「企業の成長と死の曲線が、生命体の成長と死の曲線と酷似する」といった具合だ。話題は生物から地球温暖化までと幅広い。牽強付会な部分もあるので評価は分かれるかもしれないが、多様な考え方に触れたい人にお薦めに1冊である。
   
 著者はサンタフェ研究所の元所長で理論物理学者。筆者の主張は複雑な現象の根底には共通の枠組みがあるというもの。科学から生物、社会全般にわたる多くの問題に取り組む上で必要になる、定量的な予想を可能にする枠組みを提示する。理論物理学者らしくグラフを使いながら定量的に持論を展開するので説得力に富む。複雑化の度を進める世界を読み解き、将来を予測するための枠組みを提示する試みは評価できる。
   
 人類は統一的な法則から見ると「外れ値」だという点は興味深い。人類が生物的動物の生活から抜け出して、社会共同体を営み都市的生活に移行した結果、寿命は2倍、代謝率は100倍に拡大した。人新世という言葉を散見するようになったが、現在は「都市新世」と呼ぶべきだと語る。

書籍情報

スケール(上):生命、都市、経済をめぐる普遍的法則

ジョフリー・ウェスト、山形浩生・訳、森本正史・訳、早川書房、p.320、¥2530

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。