横田英史の読書コーナー
分水嶺〜ドキュメント コロナ対策専門家会議〜
河合香織、岩波書店
2021.4.28 12:10 am
2020年2月のコロナ対策専門家会議の設立から廃止までの5カ月間を追ったノンフィクション。新型コロナ感染拡大による未曾有の危機に、感染症の専門家たちや行政がどのような議論を行い、対応したかを克明に記録しており一読の価値がある。特徴は、専門家会議のメンバーのバックグラウンドを含め人物像を詳細に描いているところ。マスメディアの報道では知り得ないエピソードも数多く取り上げており読み応えがある。
筆者は、この書評で取り上げた「選べなかった命〜出生前診断の誤診で生まれた子〜」を執筆したノンフィクション作家。前例のないパンデミックに対して、間違うことを前提に対策を練る感染症の専門家(科学者)と、無謬性を背負う政府・官僚とのせめぎ合いを詳述する。著者が専門家会議のメンバーに食い込んでいることもあって、コロナ対策専門家会議寄りに感じる箇所もあるが、厚生労働省や政府の関係者からの証言も集めており、全体に極力中立性を保とうとする姿勢がうかがえる。
太平洋戦争、バブル崩壊に続く第3の「敗戦」と呼ばれるコロナ禍。「科学の軽視」「根拠なき楽観論」「縦割りの弊害」といった、日本の組織の宿痾が今回も頭をもたげている。本書を読むと、その内実がよく2021分かる。
書籍情報
分水嶺〜ドキュメント コロナ対策専門家会議〜
河合香織、岩波書店、p.234、¥2823
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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