横田英史の読書コーナー
社会はどう進化するのか〜進化生物学が拓く新しい世界観〜
デイヴィッド・スローン・ウィルソン、高橋洋・訳、亜紀書房
2021.4.10 3:09 pm
環境問題やポピュリズムなど社会が抱える問題の解決策を進化論的な観点から探った書。進化論の枠組み(ツール)を使って社会の変化や進化を解き明かす。企業や学校、近隣社会、宗教団体などグループに始まり、個人が繁栄する条件を探る。筆者が挙げるのは「協調」の重要性である。進化論を人間社会や経済活動のメカニズムに当てはめる視点がユニークである。一読に値する。
筆者は、「進化の考えは微生物から人間に至るあらゆる生物の社会的行動を理解するための包括的な理論的枠組みを提供する」「良き社会を形成し維持するための政策を立案するにあたって、生物学とりわけ進化の科学を参照する必要がある」と主張する。進化論と整合性が取れない政策が、人間の疾病や社会の機能不全を生むと結論付ける。
企業活動への進化論の適用では、トヨタ自動車やシリコンバレーの事例を取り上げる。ラピッド・リザルト・サイクルと呼ぶ概念もアジャイル的な観点を含んでおり興味深い。残念なのは翻訳がイマイチな点だ。日本語としてとても読みづらいが、筆者の提示する処方箋の数々には、我慢して読み進める価値がある。
書籍情報
社会はどう進化するのか〜進化生物学が拓く新しい世界観〜
デイヴィッド・スローン・ウィルソン、高橋洋・訳、亜紀書房、p.352、¥2530
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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