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横田英史の読書コーナー

恐れのない組織〜「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす〜

エイミー・C・エドモンドソン、野津智子・訳、英治出版

2021.2.23  10:45 am

 組織における心理的安全性の重要さを、提唱者であるハーバード・ビジネススクール教授が事例とともに紹介した書。対人関係の不安が組織を蝕む例として、フォルクスワーゲンや福島第一原子力発電所、ウェルズ・ファーゴ銀行などを挙げる。逆の事例としてはピクサーや福島第二原子力発電所、ハドソン川の奇跡を起こしたUSエアウェイズなどを取り上げる。
   
 知的集約型組織がより効果的に活動するには、心理的に安全な職場でなければならないと著者は主張する。心理的安全性は、対人関係のリスクをとっても安全だと考えられる職場環境で担保される。不安は学習を妨げ、分析的思考や創造的考察をできなくする。イノベーションには、不安を抱くことなく率直に発言できる心理的安全性が不可欠というわけだ。
   
 福島第一原子力発電所事故の根本原因は、盲従的服従や権威に異を唱えないカルチャー、計画を何が何でも実行しようとする姿勢、集団主義、閉鎖性にあるとの指摘は耳が痛い。森喜朗の女性蔑視発言をめぐる騒動を思い浮かべながら本書を読むと、日本社会の抱える問題が改めて見えてくる。ちなみに「笑えない冗談」への対処法にも言及する。

書籍情報

恐れのない組織〜「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす〜

エイミー・C・エドモンドソン、野津智子・訳、英治出版、p.320、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。