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横田英史の読書コーナー

オードリー・タン〜デジタルとAIの未来を語る〜

オードリー・タン、プレジデント書籍編集チーム・編集、プレジデント社

2020.12.22  12:21 pm

 このところオンラインセミナーで引っ張りだこになっている、台湾のオードリー・タン デジタル担当大臣の著作。プレジデント社の編集者が20時間超のインタビューを単行本にまとめたもの。インタビューがベースなので深みに欠けるのは致し方ないが、中身は悪くない。自らの行動原理や台湾におけるITの位置づけなどのエッセンスは十分に伝わる。

 オードリー・タンはオープンソースでマスク配布のシステム「マスクマップ」を構築し、台湾市民に混乱なくマスクを行き渡らせたことで、広く知られるようになった人物である。特に日本での人気が高い。
   
 本書では、AIを含むITの現在と未来に対する見解、政治哲学、民主主義への思い、日々の執務スタイル、生い立ち、日本へのメッセージなどを綴っている。評者は講演をいくつか視聴したが、引き出しの多さ(懐の深さ)が印象的だった。本書から、そのバックグラウンドの一端を知ることができる。
   
 マスクマップ誕生までの経緯を述べた部分は読み応えがある。台湾の学生と市民らが立法院を占拠した「ひまわり学生運動」や台湾最大のオープンソースコミュニティ「g0v(ガブゼロ)」の存在などが背景にあり、台湾社会・行政のIT化やオープン化が付け焼き刃でないことが分かる。DXバブルの渦中にある日本だが、冷静に足元を見るためにも一読の価値がある。丸善丸の内本店のノンフィクション部門でベストテン入りしたのも理解できる。

書籍情報

オードリー・タン〜デジタルとAIの未来を語る〜

オードリー・タン、プレジデント書籍編集チーム・編集、プレジデント社、p.256、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。