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横田英史の読書コーナー

マインドハッキング〜あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア〜

クリストファー・ワイリー、牧野洋 ・訳、新潮社

2020.12.4  12:11 pm

 2016年の米国大統領選におけるトランプ政権誕生、2016年の英国民投票におけるブレグジットなどで、米英の世論を操った英ケンブリッジ・アナリティカ(CA)の暗躍ぶりを暴いた内部告発の書。Facebookから違法に入手した8700万人分の個人情報を分析し、どのように米国と英国の国民を洗脳・扇動したかを詳細に明らかにする。新聞などで概要は知っていたものの、ここまで大きな問題だったとは理解していなかった。ビッグデータ時代の必読書といえる。
   
 CA創設者の一人であり、世論操作のスキームに関わったカナダ出身の技術者である著者の証言はとてもリアルだ。CAによるデータアナリティクスは、スティーブ・バノンのマインドコントロール兵器として機能したと述べるとともに、ビックデータを心理戦版大量破壊兵器として使い、米国と英国を実験場としたと語る。メッセージをカスタマイズして、計量心理学上のパーソナリティと一致させれば、人間の行動を予測するだけではなく、人間の行動に変化を起こすことが可能という。
   
 米国ネブラスカ市民の一覧をスクリーンに映し出すシーンは映画のようで印象的である。市民の名前をクリックすると、顔写真や勤務先、子供の学校、投票行動、好きなミュージシャンなどの情報が瞬時に表示される。英国で画面を見る筆者たちが、米国の市民に直接電話をかけ、個人情報が正しいことを確かめる場面は空恐ろしい。この書評で取り上げた「TOOLS AND WEAPONS」と同様に、技術者(プログラマー)版ヒポクラテスの誓いの必要性を改めて考えさせられる警世の書である。

書籍情報

マインドハッキング〜あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア〜

クリストファー・ワイリー、牧野洋 ・訳、新潮社、p.408、¥2310

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。