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横田英史の読書コーナー

相対化する知性〜人工知能が世界の見方をどう変えるのか〜

西山圭太、松尾豊、小林慶一郎、日本評論社

2020.11.12  2:30 pm

 人工知能の進歩が技術と哲学、経済・社会に与える影響を、それぞれの専門家が論じた書。人工知能が「人類=万物の霊長」という概念を覆しつつあることを起点に議論する。自然科学、人文科学、社会科学をまたいで、人工知能やディープラーニングのもつ意味を議論した意欲的な書籍で読み応えがある。「こんな見方ができるんだ」と思わせる俯瞰的な捉え方は刺激的で、ビジネスにも応用できる。多くの方にお薦めの1冊である。
  
 第1部は松尾豊 東大教授が技術的な進展について手堅くまとめる。興味深いのは、ディープラーニングがソフトウエア開発に新しいパラダイムをもたらすと指摘している点だ。また人間の知能の仕組みが明らかになれば、社会における知識伝達の仕組みも数理的なモデルで説明できるかもしれないと語る。
  
 第2部は西山圭太 経産省局長が、人工知能が人間の認知構造に変化をもたらす可能性を取り上げる。人間を超える知性があり得ることが、人間の歴史や地球・宇宙の歴史の再解釈につながるとする。ミクロ的な構造の徹底追求からマクロ的な特徴・パターンの認知への変化という指摘も興味深い。
  
 最後の第3部は、小林慶一郎・慶応大学教授が社会的・経済的なインパクトを語る。人工知能の出現が、思想の閉塞状況から我々が脱却するキッカケになるかもしれないと指摘する。人工知能と人間の協働による拡張された理性によって、イノベーションは無限に起こり、社会は進歩し続けると信じることができるようになったとする。

書籍情報

相対化する知性〜人工知能が世界の見方をどう変えるのか〜

西山圭太、松尾豊、小林慶一郎、日本評論社、p.360、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。