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横田英史の読書コーナー

チョンキンマンションのボスは知っている〜アングラ経済の人類学〜

小川さやか、春秋社

2020.9.22  10:19 am

 香港の雑居ビル「チョンキンマンション(重慶大厦)」に集うタンザニア人の生きざまを、ョンキンマンションのボスであるカラマを中心に追った書。文化人類学者の立命館大学教授が、一般的な日本人の感覚から遠く離れた価値観に基づく彼ら・彼女らの生態を生き生きと描く。朝日新聞のウィークエンド版が取り上げられた著者に興味を持ち購入したが大正解だった。掛け値なしに面白い。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したのも納得の出来である。肩のこらない内容なので、秋の夜長の読書に向く。
  
 香港のアンダーグラウンドの怪しげな雰囲気をプンプン伝えた書だが、商売人としてのタンザニア人の才覚と逞しさ、融通無碍さには舌を巻く。「ついで」を利用した独自のシェア経済は実に興味深い。中国本土や香港で中古車やスマホ、衣料品などを仕入れてはタンザニアに送って利ザヤを稼ぐ。逆にタンザニアからは天然石を仕入れる。ビジネス(金儲け)とプライベート(歓楽)が渾然一体と進めながらも、人生を謳歌している姿を筆者は生き生きと描いている。
  
 ITの使いこなし方もすごい。インターネットに欠けている信頼関係を独自の手法でセーフティネットを築き、SNSやFintech、スマホをまさに使い倒してビジネスを進める。クラウドファンディングに似た互助ネットワークも存在する。いずれも「いい加減」なのだが、妙に心地よい。何ごともキッチリ整理整頓した形でないと前に進めない日本との差はきわめて大きい。

書籍情報

チョンキンマンションのボスは知っている〜アングラ経済の人類学〜

小川さやか、春秋社、p.276、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。