横田英史の読書コーナー
キャサリン・グラハム わが人生
キャサリン・グラハム、小野善邦・訳、Kindle
2020.8.29 11:03 pm
映画「ペンタゴン・ペーパーズ」のもとのなった、元ワシントン・ポスト社主キャサリン・グラハム(映画ではメリル・ストリープが演じた)の自伝。筆者が6年をかけて執筆した2段組で660ページ超の大著である。1997年の初版本(現在はKindleで読める)を購入して読み始めたが、結局、読み終えるのに20年以上もかかった。恐ろしく時間がかかったのは、ワクワク感に乏しい前半300ページでいったん力尽きたから。逆に後半はペンタゴン機密文書やウォーターゲート事件などのエピソード満載で、どんどん引き込まれ、あっという間に読み終えた。ペンタゴン機密文書やウォーターゲート事件の裏側で、ワシントンの政界で何が起こっていたかを知るには必読の書である。
本書は前半と後半で全く趣きを異にする。前半は両親の話に始まり、エスタブリッシュメントの生活、社交界、父親のワシントン・ポスト買収、結婚、夫の病気と自殺といったエピソードが語られるが、評者にはいまいち興味がわかなかった。対照的に後半は波乱万丈である。ペンタゴン機密文書、ウォーターゲート事件、ワシントン・ポストの印刷工組合のスト、女性経営者としての苦悩など刺激的である。驚かされるのは、経営者として女性としての怒り、悲しみ、悩み、喜びなどをストレートに表現する語り口の率直さである。
登場人物の多彩さもすごい。政治家ではケネディ、リンドン・ジョンソン、マクナマラ、レーガン、小説家のトルーマン・カポーティ、批評家のウォルター・リップマン、投資家のウォーレン・バフェットとそうそうたる面々との交流を活写する。この部分だけでも十分に価値がある。
書籍情報
キャサリン・グラハム わが人生
キャサリン・グラハム、小野善邦・訳、Kindle、p.943、¥2594
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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