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横田英史の読書コーナー

現代経済学の直観的方法

長沼伸一郎、講談社

2020.7.24  12:34 pm

 理系の研究者が経済やお金、貿易の仕組み、経済政策の狙いなど、経済学の基本を独自の視点で論じた書。とにかく比喩が非常に秀抜で、解説がす〜と腹落ちする。タイトル通り、経済学が直感的に分かった気にさせてくれるのは確かである。筆者は『物理数学の直観的方法』(ブルーバックス)も著しており、こちらも読もうという気になる。注目の著者である。
  
 本書は、資本主義の仕組み、インフレとデフレのメカニズム、貿易はなぜ拡大するのか、ケインズ経済学とは、貨幣はなぜ増殖するのか、ドルはなぜ国際経済で君臨したのかなどについて、歴史や宗教の逸話を交えながら解説する。「経済を長期間安定して支えることのできない半導体文明の弱点は、将来において不安の種になる」「半導体で生き残れる企業は少ない。急速に広まり、急速に儲からなくなる」といった視点はユニークである。
  
 興味深いのは、筆者がブロックチェーンに他の章に比べ多くのページを割いて解説しているところ。仮想通貨ではなく、小規模な非金融系のブロックチェーンの将来性を評価しているようだ。仮想通貨の基軸通貨としての限界についても言及する。最後に日本の歴史を大きく動かすのは「理数系武士団」という持論を紹介する。ものづくりに専従していた縁の下の力持ちでいた人々が、そこからはみ出して国の戦略立案などに積極的に関与することで歴史を大きく動かせるとする。

書籍情報

現代経済学の直観的方法

長沼伸一郎、講談社、p.458、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。