横田英史の読書コーナー
危機対応の社会科学(上)~想定外を超えて~
東大社研、玄田有史、飯田高 など、東京大学出版会
2020.6.20 11:33 am
東京大学社会科学研究所による危機対応学の入門書。新型コロナ対策のヒントがあるかと思い購入したが、残念ながらウイルスへの直接の言及はない。2015年にREDで「The next outbreak? We’re not ready」でウイルスへの警鐘を鳴らしたビル・ゲイツの慧眼に改めて感心する。本書は12本の論文と1本のエッセイで構成する。値が張るので、危機対応の概要を知したい方限定でお薦めできる。
危機対応学とは、社会に発生する様々な危機に対する社会や個人の対応の在り方について総合的に考察する学問である。社会における危機の発生と対応のメカニズムを解明する。同時に、危機をチャンスに変えるための条件を考えることを目的としている。
本書では、キューバ危機が米ソの戦争に突入しなかった理由(とても面白い)、東日本大震災をビジネス拡大の好機にした水産会社の事例、マグロやレアアース、サンマなど誤解だらけの資源危機の真相、金融危機、電力危機、職場の危機(ハラスメント)、移民問題などを取り上げる。
オムニバス方式の書籍だとコンテンツの質に差が出がちだが、本書は比較的粒が揃っており、読み物としても工夫されている。大学の先生にありがちな、自己満足に終始し意味不明な(読者を拒否するような)論文がないのは評価できる。
書籍情報
危機対応の社会科学(上)~想定外を超えて~
東大社研、玄田有史、飯田高 など、東京大学出版会、p.362、¥5280
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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