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横田英史の読書コーナー

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ〜人類とウイルスの第一次世界戦争〜

速水融、藤原書店

2020.4.12  2:17 pm

 日本におけるスペイン・インフルエンザを扱った“唯一”と言われる書。2006年に出版され、ずっと入手困難だったが、この3月に3刷が登場したのでさっそく購入した。スペイン・インフルエンザは1918年〜1919年に蔓延し、日本では約45万人と関東大震災の5倍もの生命を奪った。しかしスペイン・インフルエンザを論じた著作は日本でほとんど書かれておらず、忘れ去られた。日本は45万人の犠牲から何も学ばなかったと手厳しい。新型コロナ禍に見舞われるなか、本書は示唆に富む内容に溢れ、筆者の危機感が迫力を持ってひしひしと伝わってくる良書である。少々値がはるが、それだけの価値は十分にある。

 筆者は、当時の人がどのように対応したのか、政府はどんな手を打ったのか、なぜ忘れられたのかについて論じ、「将来やってくるであろう新型インフルエンザに対する備えは、過去の歴史を知ることから始めなければならない」「人類とウイルスとの戦いは両者が存在する限り永久に繰り返される」と語る。マスク、満員電車、学校の休校など今に通じる話が数多く登場する。行政や軍隊のほか、三井物産などの企業、慶應義塾大学といった大学、角界などの対応策も扱っており、内容もバラエティに富む。

 筆者は全国各地を歩き、マイクロフィルムになっている新聞のバックナンバーを中心に公表資料や各種の文献を収集する。日本だけではなく、台湾や韓国、中国、千島まで収集範囲を広げる徹底ぶりである。それだけに読み応え十分の書に仕上がっている。筆者は慶應義塾大学名誉教授の歴史人口学者。インフルエンザの専門家ではないが、「大正デモクラシー」(文春新書)を執筆時にスペイン・インフルエンザに関する文献の少なさに気づき、本書を思い立ったという。

 書き口は平易で大変読みやすい。450ページを超える書だが、新聞紙面の写真も多く、さほど時間をかけずに読み終えることができる。筆者は昨年(2019年)12月に亡くなったが、現在の状況をどのように見るのだろうか。

書籍情報

日本を襲ったスペイン・インフルエンザ〜人類とウイルスの第一次世界戦争〜

速水融、藤原書店、p.4620、¥474

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。

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