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横田英史の読書コーナー

危機と人類 上

ジャレド・ダイアモンド、小川敏子・訳、川上純子・訳、日本経済新聞出版社

2020.2.16  9:47 am

 国家の“危機”を扱った、『銃・病原菌・鉄』の著者であるジャレド・ダイアモンド(82)の新著。個人的な危機を克服する12の要因から国家の危機管理を分析する。12の要因とは、危機の陥っていると認めること、行動を起こすのは自分であるという責任の受容、囲いを作り解決が必要な個人的な問題を明確にすること、忍耐力、性格の柔軟性などである。

 筆者は、個人も国家も、機能良好で変えなくて良い部分と機能不全で変えなければいけない分別が寛容だと説く。こう言うと一見簡単そうだが、実際には困難が伴うのが人間社会の不可思議さである。筆者は7か国の歴史を俎上に上げて解説する。7か国のうち、日本と米国に2章、他の5つの国に1章を充てる。

 上巻は日本の明治維新のほか、フィンランド、アジェンデとピノチェトを取り上げるチリ、スカルノとスハルトに焦点を当てたインドネシアの歴史を振り返り、それぞれの危機克服のプロセスをたどる。フィンランドやチリの歴史は初めて読む内容が多く、筆者の衰えを知らない鳥瞰的な視点からの分析とあいまって知的好奇心を満足させられる。歴史好き、社会学好きに向く書である。

 上巻で秀抜なのはフィンランドの記述。ロシアと欧州一長い国境で接し、ロシアとスカンジナビア諸国との緩衝帯となっているフィンランドの政治姿勢は、「ロシア(ソ連)の機嫌を損なわないためなら何でもする」で昔から一貫している。その一方で、優れた政策で貧困国から世界有数の富裕国へと導いた。したたかな政治力には感心させられる。

書籍情報

危機と人類 上

ジャレド・ダイアモンド、小川敏子・訳、川上純子・訳、日本経済新聞出版社、p.280、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。