横田英史の読書コーナー
グローバル・バリューチェーン〜新・南北問題へのまなざし〜
猪俣哲史、日本経済新聞出版社
2020.1.23 10:58 am
グローバルに展開するサプライチェーンを付加価値の連鎖(グローバル・バリューチェーン:GVC)の観点から分析した書。定量的な分析が多く、サプライチェーンの実情について説得力に富む議論を展開する。米中の貿易摩擦の本質を理解する上でも役立つ。事例も適切である。例えばiPhone3Gの米国での価格は500ドルだが、米国が332ドル、日本/韓国/ドイツなどが162ドル、中国が6.5ドルなどと具体的で理解が進む。インテルやクアルコム、メディアテック、アップルなど登場する企業も身近である。経済学、政治学、社会学、経営学、統計学が絡み合う学際的な分野を解明した書で、皆さんに強くお薦めできる。
筆者はグローバル・バリューチェーンにおけるポジション争いを「グローバル化時代の新・南北問題」ととらえる。途上国はスマイルカーブの底辺から両端に向けて支配領域を拡大して、付加価値を得ようと動く。一方の先進国は保護貿易的な政策で阻止に動くといった具合である。しかも現在の空洞化問題は産業単位というマクロレベルではなく、生産工程や業務というミクロ単位で起こっていると分析する。
本書の特徴はグローバル・バリューチェーンを付加価値貿易統計を用いて見える化している点で、実に興味深い。米国と東アジアによる国際分業システムは、各国の多様な比較優位に基づく経済的補完性、それを生産ネットワークの中で体系化するサービス機能、分業のスケールメリットをそのまま飲み込む米国という巨大市場で成り立っているという。中国の高い輸送競争力は、中国国内の安価な労働力だけではなく、それが含有する東アジア諸国の高品質/高付加価値な中間財に強さの源泉があると分析する。
書籍情報
グローバル・バリューチェーン〜新・南北問題へのまなざし〜
猪俣哲史、日本経済新聞出版社、p.272、¥2750