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横田英史の読書コーナー

AI時代の労働の哲学

稲葉振一郎、講談社選書メチエ

2019.11.28  1:20 pm

 「AIの発展が社会に、とりわけ労働に及ぼすインパクトについて考える際に、我々はどのような知的道具立てを既に持っているのかを点検」した書。筆者はAIのインパクトを、「資本主義経済のもとで機械化によって仕事が奪われるインパクト」についてのデイヴィッド・リカードウやカール・マルクスの議論と対比しながら議論を進める。資本主義とは何かにまで言及しており興味深い。

 「AIの労働に対するインパクトは、資本主義のもとでの技術革新(機械化)や組織変革と変わらない」「AIがもたらす本質的な新しい問題はない」「AIが我々の社会の構造を根本的に変えるとは思えない」というのが筆者の結論である。ただし、AIが自律的な判断・行動能力を備え、道具から離れ「人」と「モノ」との中間にある存在になり始めたら、従来の伝統的な道徳や法の枠組みを揺るがす可能性があるとする。

 哲学的な議論を理解するのに必要なのかもしれないが、前提とする知識を習得するための前置きが長いのが少し残念である。興味深い議論に到達するまでに飽きてしまう読者が出てしまいそうである。またタイトルから受ける印象は「AI時代における労働は哲学的にどのように捉えれば良いのかを論じている」だが、ちょっと異なるので購入時は注意したほうが良い。

書籍情報

AI時代の労働の哲学

稲葉振一郎、講談社選書メチエ、p.224、¥1760

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。