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横田英史の読書コーナー

教育格差

松岡亮二、ちくま新書

2019.11.20  1:17 pm

 なんとなく感じていた家族環境(親の大卒/非大卒)や出身地域(三大都市圏か否か)によって教育格差が生まれ、人生の選択肢や可能性が制限されていることを膨大なデータに基づいて明らかにした書。筆者は「緩やかな身分社会」と日本の現状を位置づける。新書にもかかわらず400ページ弱と分厚く、価格も1000円超でが、それだけの内容が詰まっている。教育の実情を裏付けを持って議論したい方にお薦めできる書である。

 教育格差は小学校入学時にすでに存在し、その後も維持拡大する。公立の中学は多様な生徒が混在するというのは現実に即していない。高校入試による選別によって、人生はおおむね固定化され、子どもたちは異なる世界に導かれる。英語の民間試験に関して「身の丈に合わせて勝負してもらえれば」という大臣発言を裏付ける内容が並ぶ。

 教育格差は親の学校や教師の期待や態度に表れ、教師の達成感や生徒に接する態度に影響を与える。これがさらに生徒にフィードバックする。こうして教師が社会階層の再生産に寄与する。ちなみに筆者が格差評価の指標とするのはSES(Socioeconomic Status:社会経済的地位)で、世帯収入、親の学歴、文化的所有物(本の冊数など)、職業的地位などから成る。

 筆者は、子供を平等に扱うだけでは教育格差を縮小できないと主張する。低SESに対する追加的財政支援が求められる。このためには、教育に関する分析可能なデータ収集が不可欠である。教育改革はやりっ放しで、報告書といっても都合の良い適当な数字のら列か感想文の切り貼りでしかないと断じる。教育課程で教育課程を必修にすべきと語る。

書籍情報

教育格差

松岡亮二、ちくま新書、p.384、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。