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横田英史の読書コーナー

イノベーターズ I〜天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史〜

ウォルター・アイザックソン、井口耕二、講談社

2019.11.2  10:01 am

 スティーブ・ジョブズの評伝で知られる伝記作家によるイノベーター列伝。ハッカーや発明家、アントレプレナーらがどんな人間だったか、何を考えたか、創造の源は何だったのかを紹介する。イノベーションに必要な環境を育んだ社会的・文化的な要因についても探っている。上下2巻で900ページ弱(原書は550ページ)の大著だが、エピソードをふんだんに盛り込んだストーリーテラーぶりはさすがで長さを感じさせない。イノベーションが叫ばれるなか、多くの方にお薦めできる良書である。

 非常に多くのイノベーターが登場するが、俯瞰的な視点で手際よく整理されている。それぞれの登場人物の位置づけが明確で一本筋が通っているので、馬群に囲まれて戸惑うようなことはない。「チームワークのスキルこそイノベーションの根幹」とする筆者の洞察は示唆に富む。

 最初に登場するのは、プログラミング言語Ada(エイダ)に名を残す伯爵夫人エイダ・ラブレス。コンピュータの母と呼ばれる人物だが、冒頭で紹介されているのには大きな意味がある。エイダ・ラブレスの父親は詩人・バイロンであり、母親は数学者。筆者の考える「真の創造性は芸術と科学を結び付けられる人から生まれてきた」「イノベーターは美を大切にする人」を体現する人物である。このほか上巻では、コンピュータの誕生、プログラミングの歴史、トランジスタとマイクロプロセッサの発明、ビデオゲーム、インターネット誕生をカバーする。

 例えばコンピュータ誕生から導き出される最大の教訓は、「創造性というものがたくさんの源から育まれるアイデアの集合体」という。「イノベーションには明快な言葉遣いが必要」というコメントも秀抜である。

書籍情報

イノベーターズ I〜天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史〜

ウォルター・アイザックソン、井口耕二、講談社、p.458、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。