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横田英史の読書コーナー

ネットは社会を分断しない

田中辰雄、浜屋敏、角川新書

2019.10.25  10:00 am

 「インターネットは社会の分断を助長する」「インターネットは罵詈雑言の世界で、エコーチェンバー現象で過激化する」「若者は保守化している」といった定説に根拠がないことを、10万人規模の大規模調査データに基づき明らかにした書。ベストセラーになっている「ファクトフルネス」を地でいく内容である。思い込みを打破する興味深いデータの数々は一読に値する。お薦めの一冊である。

 筆者によると分極化し過激化ているのは、インターネットを使わない中高年層。インターネットの多様な情報に触れる機会が多い若者層は、むしろ相互理解を進め穏健化している可能性が高いという。興味深いのは、自らが好むサイトだけを選択的に接触する現象は心配するほど起こっていないという点。むしろ、自由に行き来(購入)することが難しい新聞や雑誌、テレビといった旧来型メディアの方が選択的接触の度合いは強いという。

 このほかヤフーや大手ネットメディアの利用者は分極化していないとうのも興味深い。FacebookやTwitter、ブログの利用者では左傾化と右傾化が同時に進行し、分極化が進んでいるとする。著者は、インターネット草創期に先駆者が抱いていた理想・希望は必ずしも死んでいないと結論付ける。

書籍情報

ネットは社会を分断しない

田中辰雄、浜屋敏、角川新書、p.240、¥946

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。