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横田英史の読書コーナー

野生化するイノベーション〜日本経済「失われた20年」を超える〜

清水 洋、新潮選書

2019.10.10  9:56 am

 イノベーションには野性的な側面があり、新しいアイデアや技術はあたかも生きているようにビジネスチャンスを求めて自由に動き回る、イノベーションにはパターン(一定の習性)がある、流動性が高まるとイノベーションの破壊的な側面が強くなる、というのが筆者の主張である。最先端のイノベーションの知見を紹介した書なのだが、割と当たり前のことが書かれているという印象が強い。残念だが、内容からはタイトルほどのインパクトを感じない。

 筆者の日本を見る目は厳しい。例えば、日本企業の集団主義と雇用制度がイノベーションにブレーキをかける、問題児を社内に抱えることができない、ポートフォリオ上の役割が違う事業なのにビジネス上は同じ基準で評価する、組織で管理するとイノベーションの野性味が薄れる、などである。日本企業はいま、揃ってイノベーションの必要性を訴える。イノベーションという言葉の力が強くなり、「みんなが目指すべき目標」になっている。その結果、見せかけだけで無意味な「イノベーションっぽく見えるもの」が増え、目標との帳尻合わせが横行していると日本の現状に警鐘を鳴らす。

 米国に対しても、イノベーションが成長途上にもかからわず、サブマーケットを獲得しようとする「出し抜き競争」が発生していると手厳しい。過去30年以上にわたり手近な果実をもいで暮らしてきており、イノベーションが先細りになっているという。

書籍情報

野生化するイノベーション〜日本経済「失われた20年」を超える〜

清水 洋、新潮選書、p.264、¥1430

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。